物事にこだわらないほうが楽ということありますよね。悠々とこだわりなくいけるって理想かもしれない。でもこと料理はどうか味覚などというものを超越してしまえば、どうでもいいことかもしれない。でも、私は、お客様にお金をいただいて料理を作っているのだから、自分の力で出来るだけの美味しい物を作らなければならない。そしてもうひとつ重要なことは食材の元の味以上のものは人間には作れないということなんです。これがシェフのこだわりの始まりです。おもにお店で使う食材などについてお話していきます。

第三回ーボンバ米

昔、スペイン料理を勉強し始めたころ、ある料理書に、パエリャは「ボンバ」が最高とあって、さてどんな米かと想像したものでした。もちろん最高かどうかは異論も多くあるのですが、スペインの米の調理法にはきわめて適した米であることは間違いありません。

ボンバ(Bomba)はスペインでもっとも暑いと言われるムルシア州の北西部、カスティーリャ・ラ・マンチャ州と境を接するあたりを流れるセグラ川の流域で生産されます。この地域は「カラスパラ」と呼ばれ、ここはスペインで唯一お米のD.O.(原産地呼称指定地域)があるのです。

暑いムルシアでも、このあたりは標高450mほど。川の水は冷たく、稲の発育にも時間がかかるとか。おまけに科学製剤を一切使わない有機農法ですので、生産量もごくわずかなのです。年間3000トン弱といいますから、本当に少量しか獲れない、まさに希少価値なのです。

この米の特徴は水の吸収が極めていいこと。おおよそ米粒の大きさが三倍ぐらいになるぐらい水分を吸うのですが、それでいて、ベチャベチャにならない。パラリとした仕上がりになるのです。この辺が、出汁の味を米にすわせることで成立している、パエリャのような米料理に最適と言われる理由です。

当店でディナータイムにお出しする米料理は現在このボンバ米を使用しています。ため息が出るほど高価な米なのですが、本当のスペインの米料理の味わい(日本の米とはまったくちがうのです)を体験していただきたいと考えています。