ガンバレピーマン君 その3 「ピーマンは干物にせよ!」

通常はトウガラシ(カイエンヌ・ペッパー)は乾燥させて保存します。これは世界中どこでもそうだと思うのですが、
でもピーマンを乾燥させるところはどうも見当たらないようです。そう、スペイン以外では。

前回までに、ピーマンがスペイン料理にとって、いかに重要かをお話ししてきました。今回はもう一歩進んで、
その独特の使い方をご紹介しましょう。

スペインにいかれた方なら、一度は市場(メルカード)にいかれたのでは、ないでしょうか。バルセロナなら、
ランブラス通りに面した、あの有名な「サン・ジョセップ市場=通称ラ・ボケリア」がありますが、一歩中に
踏み込めば、誰しもその圧倒的な食材の豊富さと量に驚かされるでしょう。

とりわけ日本人には、ヨーロッパの他国では見たこともないような、新鮮な魚介類に感動さえ覚えることでしょう。

さて、こうした市場で必ず目にするのが、乾物屋でーーーーといってもアーモンドやヘーゼルナッツといった、
ナッツ類を中心に売っているのですが、そういうところには必ず天井から紐に通して鈴なりになった赤い乾燥ピーマンが
ぶら下がっています。

一見トウガラシのように見えるのですが、それよりずっと大きく、形も大きさも色々な物があります。一見飾り物のように
見えるのですが、実はこれは大変重要な食材なのです。

この乾燥ピーマンの中で、代表的な二つのものを取り上げてみましょう。ひとつはニョラと呼ばれるもので、
直径5〜7cmのまん丸な赤ピーマンです。これはカタルーニャ州からムルシア州にかけての地中海沿岸で栽培されます。

もう一つはピミエント・チョリセロと呼ばれる大型のピーマンで、その大きさは日本でもよく見かけるジャンボ・ピーマン
ぐらいあります。これは主に中部〜北スペインで作られます。

いずれも乾燥させた状態で流通するのですが、面白いのはこの使い方です。これら乾燥ピーマンはまず水につけて
戻すのです。その後、断ち割って種を除き、内側の果皮をこそげとります。このペースト状になった果皮を使うのです。

なんだかわれわれが乾燥シイタケを使うときのようです。乾燥させることで、生とは全く異なる「うま味」が生まれるのも、
何やらシイタケと似通っています。

さて、このようにして得た、果皮ペーストをソースのベースにしたり、煮込みに入れたりします。たとえばカタルーニャの
ロメスコ・ソースにはニョラが欠かせません。バスクのビスカヤ・ソースやナバラ、アラゴンのチリンドロンという肉の煮込み
料理にはピミエント・チョリセロが使われます。

そういえばこのチリンドロンという料理はかなり曲解されて伝わっているようです。よく家庭向けの料理本に「チキンの
チリンドロン・ソース」なるものが、載っていますが、よく読んでみると、ただのトマトソース煮で飾りに赤ピーマンが
乗っかっているという体のものです。なぜ、こんなことになったかといえば、乾燥ピーマンを使うということが、よく
理解されないまま、紹介されてしまったからだと思われます。

それが証拠にこれらの乾燥ピーマンはごく最近になるまで、輸入されることはなかったからです。そしてまた、今でも
このような乾燥ピーマンを使う店はあまり多くないと思います。

さて、もちろんこのようなものを使わずとも「おいしい」スペイン料理を作ることはできます。でもそれは「正しい」
スペイン料理とは言えないかもしれません。私としては「正しく」て「おいしい」のが一番なのですが。

                                                                    この項おわり