シェフのひとりごと(10)

シェフのひとり言(10)

このページ、又もや長い間ほったらかしてしまいました。読んでいただいている皆様には申し訳なく思ってます。
さて、最近ホームページにアクセスしていただく方が、ぐんと増えておりまして、よくメールもいただくようになって来ました。出来るだけすぐにお返事しようと思っているのですが、これまたなかなか進まなくてすみません。
前置きはこれぐらいにいたしまして、今回はスペイン料理がいかに誤解されているかとう話をします。まあ、外国のものを紹介するときには、誤解はつき物なのかもしれません。でも、世の中には結構スペイン料理店もあるのに、どうしてこう誤解が多いのだろう、と少し考えて見ましたが、多分その理由は「混同」と「決め付け」だと思うのです。
何のことかと思われるでしょうが、その説明はあとまわしにしてどんな誤解なのかを、まず見てみましょう。


誤解その1.スペイン料理は辛い
スペイン料理は初めてだとおっしゃるお客様で圧倒的に多数の方がこう思ってらっしゃいます。
先日、アメリカのスペイン料理研究家、ジャネット・メンデルの本を読んでいましたら、スペイン料理は辛いと思っている人が、たくさんいるという意味の文章を見つけて、思わず、笑ってしまいました。アメリカでも同じなんですね。これで、原因がわかりました。メキシコ料理との混同です。スペイン語でソーセージのことを「チョリソ」といいます。でもチョリソというと辛いソーセージのことだとほとんどの人が思ってらっしゃいます。なんとなれば、日本で市販されているチョリソはメキシカンスタイルだからです。
たまに「タコスをやってますか。」と電話がかかります。もちろんこれもメキシコ料理です。スペインではオムレツのことを「トルティーリヤ」と言いますが、メキシコではとうもろこし粉で作った薄いパン(タコスの皮に使ってる)のことです。

誤解その2.スペイン料理はイタリア料理と同じだ
この誤解には微妙なところがあります。実は地中海料理沿岸のスペイン料理の一部と南イタリア料理の一部にも似たものがあるからです。(もっと言えば、南フランスの料理とも似たところがあります。)これには理由があって、ひとつには地中海沿岸という、同じ聞こうに属し、同じような食材が収穫されるからでもあり、また歴史的に文化の共通性があるからでもあります。たとえば、古くは同じローマ帝国の領土であったとか、つい数百年前まで、南イタリアとシチリアはスペイン領であったとか。はたまた、スペインとシチリアはかつでアラブ領だったとか…。でも少し地図を眺めればわかることですが、イタリアは三方が地中海です。でもスペインは地中海は一方だけ。北側は大西洋です。北部スペインでは気候も南部と大きく異なりますし、当然ながら、食材も異なります。したがって、やはりスペイン料理とイタリア料理は違うといわざるを得ません。
当店のお客様でよく「パスタはありませんか」とおっしゃる方がいらっしゃいます。もちろんスペイン人もパスタを食べます。でもそれはわれわれがキムチを食べるからキムチは日本料理だとはいえないのと同じで、根本的な意味で、スペイン料理とは言えないと思うのです。私どもではパスタを使った料理は定番で「フィデウア」と言う料理を採用しております。これはパスタという外国食材を伝統的なスペイン料理にうまく吸収した比較的新しいスペイン料理といえます。
さてその他にイタリア語との語感が似ているとの誤解があります。
たとえばタパス(西)とパスタ(伊)、ガスパッチョ(西)とカルパッチョ(伊)などです。
内容はまったく関係ない食べ物です。おつまみとヌードル、スープと生肉料理ですから。

誤解その3.スペイン料理は居酒屋料理だ
スペイン語で居酒屋はバル(BAR)、そこでのおつまみのことをタパス(TAPAS)ということは以前にもお話いたしました。〔独り言(7)〕このタパスのバリエーションの多様さとおいしさ、気軽さが受けて、最近タパスと称する小皿料理を出すお店が増えてきたようです。其のせいか、上のような誤解が生じてどのようなスペイン料理店も居酒屋化してしまっているのが現状です。もちろんスペインにも居酒屋料理から高級料理まであるのは当然のことです。

誤解その4.パエリャはスペインの国民食だ
…だからスペイン中、どこへいってもパエリャが食べられるはずだ…、と思ってしまいます。お客様で「スペインでずっとパエリャを食べ歩いたけどベチャベチャだった」とか「おいしくなかった」とかおっしゃる方がいらっしゃいますが、それはやはりパエリャの専門店で召し上がっていただくとか、バレンシア地方で(それでもあたり外れがあります)召し上がっていただくのが、一番なのです。パエリャはバレンシア地方を中心とする地中海地帯の地方料理ですから。
(パエリャの専門店ならマドリッドにあるセント・ジェームスもおすすめですよ。)
日本にまともに紹介された唯一のスペイン料理がパエリャでしかも強烈な個性を持っているものですがら、これが、スペイン料理の代表選手になってしまったのです。すきやきは欧米では日本料理の代表と思われている料理ですが、われわれは毎日すきやきを食べているわけでも、どこの和食レストランにでもあるわけではないのと同じです。

さてきりがなくなりますので、もうこれぐらいにしますが、私がはじめに申し上げた「混同」と「決め付け」の意味が、おわかりいただけたと思います。
国際社会と言われる現代ですが、多様な文化を持つ国々を十把一からげにしたり、日本人の価値観や考えを無理に当てはめようとするのは、無理なことなのです。
スペイン料理=パエリャ、イタリア料=パスタのようなステレオタイプの認識を打ち破らないと他国の文化(この場合は料理)の多様化も見えて来ませんし、真の意味での美食の世界も開けないとおもうのです。
説教くさくなりました。
平に陳謝



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