シェフのひとり言(12)
去年のことでありますが、某誌がタパスの特集のために来た時の事です。
ライター氏いわく、うちを含めて数店のスパニッシュレストランやバルを回ってきたが、タパスの多種多様なことに感心した。またどこの店も「こんなものは昔から作っている。いまさら感心されても・・・」と苦笑いしているのに痛み入ったと。
つまりいまさら何を新しいものの様に取材されるのかねーと言うことです。雑誌が出来て見てみるとほとんどの店はきわめてオーソドックスなタパスを出している。そのことに私はスペイン料理人の心意気を感じたものですが、ふと、気づいたことがありました。
マスコミ側のタパスの扱い方がいつも「ワインのおつまみ」あるいは「酒の肴」なのです。考えてみれば私どももタパスをそのように説明していたのですが、本当にそれでいいのでしょうか。
以前にも書きましたが、タパスは日本語にならない言葉です。正確に意味を示せる言葉が、日本語にはない。そればかりか、タパスをTapasと呼ばない土地もある。バクス州のサン・セバスチャンはグルメの町としてつとに有名ですが、ここでは、タパスを「ピンチョス」Pinchosといいます。Pinchosとは本来、串という意味ですが、サン・セバスチャンのバルでは薄切りのパンにさまざまなもの(たとえばゆでた海老のサラダ、カニ身のサラダだとか、さまざまなソーセージ)を乗せて楊枝で刺してあるスタイルのタパスが多いせいでしょう。
アメリカ人のスペイン料理研究家、ペネロープ・カサスもTapasを説明するのに困ったと書いています。思い余って「ナイフを使わずに食べるもの」という定義を考えたといいます。ところが在る日バルでミニステーキのタパスというのがあって、注文してみたらちっちゃなナイフとフォークが付いてきた。それで上記の定義はあえなく崩れ去ったということです。
確かにTapasの内容を見ると、ナッツやオリーブの実のようにごく簡単なものから、グリルやプランチャ(鉄板焼き)、煮こみ料理まであります。私はまだお目にかかっていませんが、スープをタパスで出すことも在るそうです。パエリャだって小皿にもって出せばタパスになってしまうのです。
要するにお菓子以外は何でも在りということです。一応タパスは正式の食事とはみなされていません。スペインの人々はバルで朝はカフェを飲み、昼前にメリエンダ(おやつ)にタパスをつまみ、また夕方はちょこっとワインやシェリーやビールを飲みながらタパスをつまみ、しかる後家に帰ったりして食事をとるのです。
といいながらタパスだけで食事を住ませる事は出来ます。「ラシオン」といってオーダーすれば同じタパスでも大きな皿に山盛り出てきます。こうなればタパスを小皿料理というのもおかしくなってきますね。
レストランでオードブルとしてタパスを注文すれば正式な食事の一部にもなります。バルでタパスを注文するとき、お酒がないといけないわけでもありません。一度など乳母車を押した若いお母さんがおやつ代わりにタパスを食べているのを見かけました。そうなりますとTapasというのはお酒の肴によし、小腹ふさぎやおやつ代わりによし、正餐にしてもOKという事になってしまい、要するに食べ方もいろいろ在るという事になってしまいます。
ただi言えることはやはり本来はちょっとつまむというスタイルが基本ということです。スペインのグルメ評論家、ハビエル・ドミンゴはタパスとは、立ち食いの芸術(アルテ)と気取ったいい方をしていますが、やはりこれはスペイン人のライフスタイルに関連しているとしか言い様が無いようです。
日本ではこのタパスにあてはまる物は何でしょう。敢えて言えばうどん、そば、お好み焼き、関東ならもんじゃ焼き、たこ焼きなどでしょうか。おすしやおにぎりも・・・?もちろんスペインの味の豊穣さに比べるとちょっと見劣りするかも知れませんが。
いろいろ書きましたが、つまりタパスとは「お酒のおつまみ」という定義だけではすまないのです。タパスはスペイン人のライフスタイル、そのものなのです。そしてその中にはスペイン料理そのものが、ぎゅうーっと凝縮されているのです。
タパスについては又おいおい書きたいと思います。それからバルについても。
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