シェフのひとりごと(11)

シェフのひとり言(19)



                                          
                                       

《4たびエル・ブジについて》

その1

 
エル・ブジのことを3回に渡ってご紹介してきたのですが、これほどリスポンスの多かったことは初めてのことで、しかも思いのほか多くの方が、エル・ブジの名前を知ってらっしゃることにも驚きました。そしてその割りに検索をかけても主要情報として、渡辺万里さんの書かれている紹介と私どものHPしか網にかからないほど情報量が乏しいという相反する現象にも驚かされました。
そこで、今回は補遺として、付け加えるべき事柄と実際にエル・ブジへいこうと思われる方のためにささやかなアドバイスなどもお話しましょう。

 さて、フェランの料理がどのようなものか、体験的にお話してきましたが、やはり隔靴掻痒(かっかそうよう)というか、今ひとつ理解していただきにくいのではないか、と思います。

 実はそんなことを考えているうちに柴田書店から「別冊専門料理スペシャリテ」というプロ用雑誌が創刊され、そこにエル・ブジをはじめ、スペインで今最も先進的なレストランが、紹介されておりました。いずれもミシュランで星のつく、スペインではもう何年も前からきわめて評価の高い店ばかりです。ですから、この雑誌を目の前にして「今更なにを」という気持ちと「やっと紹介されたか」という気持ちがない交ぜになって、なにやら複雑な心境でありました。

これは日本ではスペインの食がいかに軽視されてきたか、正しく紹介されなかったか、という現われでしょう。いまやスペインの食が世界をリードするかも知れないというのにです。

この雑誌に載っているフェランの料理は昨年私どもが体験したものでして、それらの写真とレシピを見ていただければもう少しよく理解していただけるのではと思います。

 いずれにしても彼の料理は優れてエッセンシャルであって、〈料理〉あるいは〈食〉と言うものの概念に、かつてない深さで切り込んで来るものであるということ、そして、それ故他のどんな前衛的と言われる料理よりも前に進んでいるということ、さらに〈料理の伝統〉、または〈根源〉に軸足を置いているために、その前衛性がたとえば、ピエール・ガニエールなどとはまったく異なる位相にあるということです。その意味では唯一無二の存在といっていいでしょう。

次にぜひ言っておかねばならないのは、フェランがほぼ独学の人であるということです。そして彼の料理は天才的ひらめきというより、恐ろしいほどの研究の積み重ねの中から生まれたものであるということです。

スペインでもフランスでも独学で星を取った料理人は数多くいます。振り返って日本の料理界で重んじられるのは(ということは日本人が料理人にもとめているのは)経歴でありまして、これは要するに業界を換えれば学歴主義と同じということです。
料理人の力はその料理で判断されるべきなのですが、どこそこで修行したとか、だれそれの弟子であったとか、フランスで何年いたとか言うことが、料理を判断する前提に(無意識に)なっているとしたらばかげたことです。
画家にどこの美大を出られたのですかなどと直接聴く人はあまりいないと思いますが、料理人にはどこで勉強したのですか、と尋ねる方は多くおられます。料理の腕には「どこで」学んだかよりも「何を」学んだかの方が、大切だと思うのですが。

                                                           
続く

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