シェフのひとりごと(2)
シェフのひとりごと(3)
 前にお知らせしたとおり、今回はカタルーニャ地方とその料理についてお話しします。
 カタルーニャとは、スペインの北東部、北にピレネー山脈をはさんでフランスと国境を接し、東は地中海、州都はスペイン第二の都市バルセロナ。いわゆるスペイン人とは少し人種も違うようですし、カタラン語という、独特の言葉ももっています。私事ですが、私のカミさんが最近カタランの勉強を始め、感想を聞いてみたところ、フランス語の様だったり、スペイン語の様だったり、イタリア語の様だったり、時にはどの言葉とも似ていなかったりで、結構難しいとのことです。
  中世にはれっきとした独立国で、一時は西地中海を制覇したこともある商業国家だったのです。ですから今も国境を越えてフランス側にもカタルーニャが存在し、地中海のバレアレス諸島、イタリアのサルディニア島にもカタルーニャ人がいます。余談ですがイタリア料理にカタラーナというデザートがあります。これはサルディニアのカタルーニャ人起源のもののようです。
 一般にカタルーニャ人は独立心が強く、進取の気性二富んでいる、と言われます。
 ダリ、ミロ、ガウディと言った実に発想のユニークな芸術家を生み出す一方、長年スペインでビジネスに携わって来たある知人に言わせると、カタルーニャ人とのビジネスが一番キツかったそうです。
 さて、そろそろ料理の話をしましょう。カタルーニャは海の幸、山の幸、ともに豊富で新鮮です。海は地中海、大地は南フランスと地続き、ということでプロバンスやシチリアとの類似性があるようです。当店に来られるお客様からよく「イタリア料理に似てますね」といわれますが、私自身はむしろプロバンス料理との親近感が強いように思います。
 カタルーニャの料理の特色は、素材の味を生かしたシンプルな(むしろ素朴な)調理法がある一方、アーモンドや松の実などのナッツの香ばしさ、レーズンやプルーンなどのドライフルーツの自然な甘さなどが味にコクと奥行きを作ります。
 さて、具体的に料理をご紹介しましょう。まずスペイン版のブイヤベースともいうべき「サルスエラ」、新鮮な魚介のうまさにナッツを溶かし込んだソースのコク。
 地中海野菜を煮込んだ「サンファイナ」、これは南フランスのラタトゥイユ、イタリアのカッポナータとよく似ていますが、違いはそれ自体でひと皿の料理になる以上に、ソースにもなるということです。サンファイナで煮込んだチキンや兎、鱈など素朴ながら実に豊かな味わいです。
「エスケイシャーダ」は塩抜きした鱈を使ったサラダ。このさっぱりとした美味さは夏の暑い日にはこたえられません。
 茄子やピーマンを皮が真っ黒になるぐらい焼いたものを「エスカリバーダ」と呼びます。こげた皮は取り除きオリーブオイルをかけていただきます。
 野菜の本当のうまさが味わえるカタルーニャならではの一品。
 そのほか、にんにくを使った一種のマヨネーズ「アリオリ」は南フランスでは「アイオリ」としてお馴染み。この「アリオリ」と、赤ピーマンやとうがらしをナッツと一緒に擦りつぶして作る「ロメスコ」とは、カタルーニャの二大ソース。
 お菓子なら、シナモン風味で柔らかく仕上げたカスタードクリームの表面を焼いて仕上げた「クレマ・カタラナ」や、団子にしたマジパンの表面に松の実を張りつけ焼いた「パネジェ」などが代表でしょう。
 さて、なんといっても極めつけは「パン・コン・トマテ」でしょう。このレシピは先月ご紹介したので覚えておられると思います。焼いた田舎パンの表面にニンニクとトマトをなすり付けオリーブオイルをかける、ただそれだけのものですが、この単純素朴でいながら食材の本質に迫る味わいこそ、カタルーニャらしいな、と思うのです。