![]() シェフのひとりごと(4) 今回は、スペインでも美食地帯といわれるバスク地方についてお話しましょう。 バスクはスペインの北東部、大西洋に面し、フランスとスペインにまたがる地方です。 バスク人そしてバスク語は起源が不明と言われ、他のヨーロッパの人種・言語とはまったく系統が異なるそうです。バスク語は恐ろしく難解な言葉と言われます。カタランなどは、同じラテン語系のスペイン語やフランス語との類推で見当が付く場合があるのですが、バスク語ではそうはいきません。例えばリゾート地で有名なサン・セバスチャンはバスク語でドノステアといいます。スペイン語のオラ(やあ、こんにちは)は、バスク語ではカイショーと言うそうです。 そのほか、バスクと言えば、爆弾テロのETAで有名だとか、バルセロナオリンピックで正式種目になったハイアライはバスク起源だとか、日本に初めて西洋思想であるキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルはバスク人だとか、話が広がりだすとキリがないので、興味のおありの方は堀田善衛さんの「情熱の行方」をお読み下さい。 さて、バスクは美食の国、バスク人は食いしん坊、と言われます。先日、当店に来られたスペイン人のお客様、オードブルに召し上がったお料理の量が多かったようで、少し残されました。 私の顔を見るなり、「ボクはコルドバ生まれのアンダルシア人だから、バスク人みたいにたくさん食べられないんだ」とおっしゃってました。それぐらい、バスク人はよく食べると言われるのです。もっとも、そのお客様はメインのお魚料理をペロリと召し上がってられましたが。 またバスクには男たちが集まって自分たちで料理をつくり楽しむ美食クラブの存在も有名です。さらにミシュランで星の付くレストランが集中的に集まっています。 ではバスク料理と他地方のスペイン料理とはどう違うかと言いますと、端的にソースのありかたと言えましょう。少々乱暴ですが簡単に言ってしまうと、伝統的なスペイン料理ではソースというものは食材を調理してゆく課程で必然的にできるもので、それ自体が自己主張するものではありません。しかしバスクではソースそのものの存在が非常に重要です。バスクには、赤・緑・黒・白の4色のソースがあるといわれます。赤は赤ピーマン、緑はパセリ、黒はいか墨、白は油とだしを乳化させたもの。 どうですか、フランス料理のソースとは、かなり異なったものだと思いませんか。 これらのソースに鱈やメルルーサといった大西洋の魚を組み合わせたものが、伝統的なバスク料理なのです。もちろん海の幸に限らず、山の幸も多彩なものがあります。 そして、このような伝統的なものをベースに「新バスク料理」と言われる現代的で世界に通用するグレードの高い料理へと脱皮させたのも、バスク人の食いしん坊根性というほかありません。 さて、冒頭でフランスにもバスク地方がある、といいました。だから、フランス料理にもバスクの味が入り込んでいるのです。フランス料理のピペラード・バスクなど、スペインの香りがするではありませんか。よく、スペイン料理ってどんなものか、と尋ねられます。でもフランス料理と称して、知らずにスペイン料理を召し上がっているかも知れないのです。
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