シェフのひとりごと(4)
シェフのひとりごと(7)

   今回は、スペインの食べ物屋さんでもっとも特徴のある業種、バルの事を書いて見ます。 バルはBARと書きます。でもいわゆるバーとはまったく別物ですし、又今はやりのイタリアンバールともかなり異なります。イタリアのそれは、ソフトドリンクスとアルコール類、それにちょっとした軽食といった内容ですが、スペインのバルと決定的に異なるのは、フードの部分でしょう。

スペインのバルではタパスと呼ばれる一種の酒の肴が重要な位置を占めます。タパス(TAPAS)とはもともと「ふたをする」という意味のTaparから来たといいます。昔パンの一切れをお皿代わりにしていた頃(だから本当に昔です。)飲み物のグラスにハエが飛び込むのを防ぐためにパンでグラスにふたをしたのが始まりだとか・・・。

タパスという言葉はどうもいい日本語になりません。酒の肴といってもおつまみとしてもどうもうまく表現出来ません。 要するにタパスの方が内容が広いのです。。
タパスにはナッツやオリーブの実のようなごく簡単なものから、量を増やせばそのまま立派な一品料理になってしまうものまである。 逆にいえばタパスにならないスペイン料理はないといっても、あながち間違いではありません。まあこんなものですから、バルの中にはタパスを売り物にするところも数多くあります。

マドリッドのマヨール広場周辺はバルが集まっているので有名ですが、中にはタコ専門とかマシュルーム専門とか面白いバルがたくさんあります。 後者など店に入るなり「マシュルームを食せずして帰るべからず」と大書きした額が目に飛び込んできて思わず笑ってしまいます。

バルの話のつもりが食べる話に脱線しそうですね。では脱線話を二つほどして終わりましょう。どちらも場末の一見さえないバルの話です。

マドリッドの場末で。
その日真夜中近くに疲れきってホテルに着いたのです。空腹でとにかく何か食べたい。ホテルから右に街路を少し行ったところにいかにも場末のバルが一軒。表のガラスにへたくそな料理の絵が描いてある、よくあるスタイルのバル。でも人でいっぱいだったのでとにかく入ってみた。マドリッドのバルはカウンターだけのところが多くみなその前に立って飲み、食い、おしゃべりしている。 たいてい奥のほうはテーブル席があってサービス料がかかるけど食事したい人はそちらへ行く。テーブルにつくと擦り切れてはいるがきれいに洗濯したテーブルクロスを掛けてくれ、ナプキンもくれる。ここで白ワインと食べたのはイカのフリトスやトルティーリャといったバルの定番メニューだったが、何の変哲もない場末のバルででどうしてこんなにうまいものがと・・・。

バルセロナの場末で。
歩きつかれて、偶然目にとまったバル。
街路のテーブルに席を取り、空腹にも気づいて、さて食べるものはと聞くと、黒板に5品ほど書いてあってこれだけだという。見ればカウンターの中にはTシャツを腕まくりしたお兄さん。エイ、行ってしまえとばかりブティファラとトマトサラダを注文した。その焼いたブティファラの香ばしさ、付け合せのインゲン豆のふっくらとしたうまさ、そしてとどめは生のトマトとたまねぎを乱切りしただけのサラダのなんともいえない甘さ。何の変哲もない場末のバルでどうしてこんなにうまいものがと・・・。