【スペイン・バルの衰亡―――又は一条の希望

今や外食業界では「スペイン」という文字が、以前なら考えられなかったほど、頻繁に出てきます。
あちこちの街角には「スペインバル」と称する店が出現し、スペイン料理というものも昔ほど珍しいものとして、扱われなくなってきました。

数年前のブーム直前に私がこのコラムに書いたように、なんちゃってバル、格好だけのバルも数多いーーーーそれもこれも含めて
ともかく一時は雨後のタケノコのように出現したスペイン・バルーーーーしかしよくよくタウンウォッチしてみるとどうも最近は少し様子が
変ってきている。少しずつ数が減り始めているような気がするのです。

以前スペイン・バルだった店が、イタリアン・バールになっている、というのが多いパターンですが、そのほか、ワイン・バー、エスニック居酒屋、
焼き鳥屋などなど何となくカウンターで気楽に飲み食いできる店になっている。中には思いを捨てきれなくて、「スパニッシュ・イタリアン・バル」
なんてのもある。

これらの店が業態を変えたのには様々な理由があるのでしょう。たとえば、「スペイン」だけでは、思ったほどお客が来ない、原価が高くて
もうからない、などなど。

しかし、よく見てみますとこれらの店は、ほとんどスペイン・バルというには、その内容がスペインではない、というのが多いようです。

大体、こういう店が出現するのは、マスコミにも問題があるので、情報誌などで、新しいスペイン・バルとして紹介している店の中には
「料理はイタリアンが基本、やっぱりパスタははずせない」なんてうたっている店もあるくらいで、そのいかがわしさは数回前のこのコラムでも
お話しした通りです。

さて、こういう店がスペイン・バルをやめた、あるいはやめようとしている理由の大きなものは、これらの店のスペインの食への理解がごく
皮相的で「スペイン・バル」の看板を支えきれない、ということが大きいのではないか。これは、こうした店のメニューを見ればただちに
了解できることですが、私など「もっと料理を勉強しろよな」とぼやいてしまうのです。

料理というのは(いや料理だけでなくて、どんなことでも)ここまでやれば、修了というものではない、常に知り、理解し、工夫する努力を
しないといけない。偉大なシェフといわれる人ほどそのような努力を続けている。ましてバルでスペインの食に対する抽斗が空になって
行き詰り、イタリア料理に逃げる、などというのは料理人が勉強していない、その気もないということにほかならず、お客様からお金を
頂ける状態ではないのです。

ですから、最近の現象は「スペイン・バルの淘汰」というより「自滅」なのです。

スペイン料理をやっているものとしては、こういう状況はうんざりなのです。スペイン料理も知らないし、スペインワインもわからないなら、
スペインバルとは自称しないでほしい。

以前にも書いたように、スペイン料理が一般の人々に認知られないうちに、浅薄な「スペイン・バル」と称する店が、激増したために、
いまだに充分にスペイン料理が理解されているとは言い難い。むしろ、簡単なバル料理のみをスペイン料理と認識している人が増えて
いるのではないかと疑いさえ持ちます。

さて、こんなことを考えておりましたら、一通のメールが入りました。隣町でスペイン・バルの店長をしている方で、私どものHPをお読みに
なっていて、このコラムが大変興味深く、プリントアウトしてスタッフにも読ませているとのこと。近々こちらに来られる用があるので、私どもの
店に寄りますということで、お会いしてみると、大変礼儀正しくまじめな青年でした。

彼の話によれば、もともとイタリア料理出身で、のちにバーテンダーに転向。現在はスペイン・バルの店長を任され、本人はシェリー酒に
大いに興味をひかれ、ベネンシアドールへの道も考えている、とか。スペイン料理そのものも研究されているようで、料理人のキャリアを
持っている人物らしく、スペイン料理とイタリア料理は全くことなるものだ、との認識を得ているとのこと。

彼のようにまっとうにスペインの食を追及しようとする若者がいることに、私どもとしては大いに力づけられ、また、スペインバルの将来にも
光はあるな、と思い直したのです。