泣くなパセリ君

昔どこにでもあった喫茶店で、サンドイッチなどを頼むとその皿には必ずと言っていいほど、
パセリが彩りに添えられていました。また、洋食屋さんで出されるハンバーグや海老フライ
にも必ずパセリが添えてあって、人に言わせると、それは食べてはいけないものだったようです。
その理由を聞くとパセリは飾りものだから皿が下がってきたら洗ってもう一度使うのだとか。
これが今でいう「使い回し」の問題にならなかったのは、おおらかな時代だったから、というより
飾りである=食べてはいけない=食べるものではない、という論理だったからでしょう。

日本の懐石料理では、季節感を表現するために種々の飾りものが添えられます。われわれ日本人は
皿の上の食べられない飾りに慣れっこになってしまって、飾りはごく当然の感覚になっている人が
多いのではないでしょうか。

西洋料理、特にフランス料理では、パロック時代の装飾過多の料理から時代を下るにつれ、装飾が
はぎ落され、エスコフィエやモンタニエの時代に至って、食べられないものは皿の上にない状態の
今日のような料理になったと言われています。

とはいうものの現代では多様な嗜好があって、いろいろなものがカラフルに盛り付けられている
料理を喜ぶ人が存在し、料理の本質に関係あろうが無かろうが、いろいろと盛り込むと、よりお金が
もらえると思う料理人も存在し、結局食べられる食材を食べられないかのように無意味に装飾した
料理が出現するわけです。パセリはそのもっともシンプルな一例でしょう。

また、パセリの味は苦くてまずいから、食べるもんじゃないと思っている人もいるはずです。
でもパセリは食べ物です。ことにスペインでは重要な食材のひとつです。そして、パセリはただの
飾りにすぎないと考える人は、それがハーブであることすら認識していないのではないかと思います。

ところで、スペインでパセリ、というのは平葉のパセリ(日本でいうイタリアンパセリ)のことで、
われわれが通常手にするちぢみ葉のパセリではありません。イタリアもフランスもスペインもみんな、
この平葉のパセリを使うのにもかかわらず、なぜこれが「イタリアンパセリ」なのかさっぱり要領を
えませんが。それはともかく、ちぢみ葉のパセリに比べ、平葉のパセリは穏やかな味とほのかな香り
のもので、なぜ日本でももっと使われないのかふしぎではあります。

いづれのパセリにつても言えることですが、出汁を引く時にはパセりの軸を使ったり、スペイン料理で
トマトのソフリートを作る時や、煮込みの準備にソースを作る時など、パセリのみじん切りをかならず
投げ込んでやります。また、出来上がった料理にもこのパセリのみじん切りを振りかけてやります。
スペインにはこのような料理が本当にたくさんあります。

中にはパセリがソースの重要な構成材料である、バスク地方の「サルサ・ベルデ」(グリーン・ソース)
というのもあります。ソースにパセリを使えば、味を落ち着かせ、深みを加えることが出来ますし、
仕上げに使えばフレッシュな香りとその緑色が時にアクセントを与えます。
このようにスペインではパセリは料理の味を決める大切なものであり、飾りではないのです。

しかしここに一つ例外があります。スペインの有名な料理人、カルロス・アルギニャーノはパセリを
飾りに使うことで知られています。彼はテレビで料理番組を持っていて、そこで紹介する料理に
必ずと言っていいほどパセリを添えるのです。いつでしたかスペインのテレビのお笑い番組を見ていましたら、
不精ひげにホロ酔い状態のコックさんに扮したコメディアンが出てきて、トック帽にパセリをさしている。
見たとたん大笑いしてしまいました。スペイン人なら誰が見てもアルギニャーノのギャグだとわかるからです。

それはともかく、もうそろそろパセリを飾りに使うのはやめませんか。使いようで料理の味を良くすることの
できるパセリ、これを鑑賞しただけで捨ててしまうのはあまりにもったいないと思うのです。

さて、喫茶店のサンドイッチにパセリが添えて出された時、私はそのパセリを小さくむしって、サンドイッチの
具の中に押し込んで食べていたものです。そうするとつまらないサンドイッチもぐっとおいしくなるから
不思議です。ぜひおためしあれ。