「生ハムを切る」ということ―――その2

同じタイトルで「その1」を発行してから、かなり長い時間がたってしまいました。実は前回の発行からしばらく後に、日本で初めてのイベリコ・ハム公式コルタドールコンテストがおこなわれ、私も参加いたしました。内容と結果はHPに載せている、2008年1月号の「グルメジャーナル」誌に詳しいので、ここでは省略いたします。

ワインにソムリエという仕事があるのと同様に、生ハムにはコルタドールという仕事があります。ソムリエの仕事が単にワインのうんちくを売ることではなく、飲料全般の仕入れ・品質管理・、原価管理・プロモーション・パーフォーマンスまで、カバーするのと同様、コルタドールもまたそのすべてに精通していなければなりません。

このコルタドール、日本ではまだ始まったばかりで、ソムリエのように厳密な資格定義も確定しているとは言えず、実施方法やルールなど今後の一層の検証を待つべき点が多いのですが、ともあれ生ハムという貴重な食材をどう取り扱うべきか、という共通認識がやっと日本にも生まれたかと考えたものです。

さて、私の店だけの現象かも知れませんが、最近生ハム(ハモン)に対するお客様の反応が、少しずつ変化してきている気がするのです。以前は「食べたことがない、どんなだろう」というような興味をお持ちのお客様か、イタリアのプロシュートの連想をされるお客様が多かったのですが、最近はお勧めすると、「塩辛いだろう」とか「あまりおいしくないだろう」とか言われるお客様がいらっしゃるのです。つまりどうもどこかで、質の良くないハモンを食べられたとしか思えない反応が、多々あるのです。

思いますに、一つには生ハムというものがまだまだ十分に知られていないということにあると思われます。それはお客様側も売り手の店側もそうなのであって、まずハモンにもピンからキリまでランクがあるということ、そして、これらについて売り手も無知である場合と、知っていて安物を売っているという両方の場合があると思われます。私どもは機会があればハモンのお話をさせていただくのですが、一個人の力ではなかなかとても追いつきません。

二つ目には、いい品質のハモンを仕入れているのに保存法がだめでという場合。これはひとえに店側の問題ですが、実はこれが案外多いのではないかとにらんでいるのです。

たとえば上質のマグロを冷蔵庫にも入れずタナざらしにしおいて、ろくに切れない包丁で切り、ニセわさびと安物のしょうゆで食べる、などという光景は普通の日本人なら耐えられないでしょう。それと同じで、高価なハモンを適当な包丁で切って、あと切り口をさらしてほったらかし、おかげでハモンは水分が飛んでカペカペ、そのうえ塩分が噴き出して、風味も無くなり塩辛いだけ・・・・・・・これでは物の価値を知らない、というより野蛮ですらあります。

実はこのようなことがまかり通っていることが、今のスペイン料理業界の(ありていに言えば乱立するスペインバルの)危うさでありますし、提供する側、食べる側ともに、食に対する意識、知識のおそまつさを感じざるを得ません。はじめに書いた、コルタドール・コンテストなども機会があれば若い料理人たちには挑戦してほしいものです。そういうことがハモンについてのより深く広い知見に結びつくはずです。

こんな話をするのはもう、うんざりするのですが、世に乱立している「バル」なるものを眺めていて、スペインの食に対する、あまりの知識のなさ、うわべだけまねようとする粗雑さばかりが目につきます。こんなことで、「ハモンは塩辛い」「ハモンはおいしくない」などと思う人が増えれば、ある意味一番の被害者は何年もかけて丹精込めて作られたハモンではないかと、
感じざるを得ません。