「パエリャ、パエリャ、パエリャ」
私どもがスペイン料理店をオープンして、もう17年たってしまいました。当時はスペイン料理といっても
ピンと来てもらえず、知られている料理はパエリャだけ、それも「パエリャって何?」という質問もまた
圧倒的に多いという、まあそんな時代でした。
時がたち、今では「スペイン料理」の看板を揚げる店もふえ料理のいくつかも多少知られるようになった
わけですが、やはりパエリャを召しあがりたくて来られる方がほとんどなのです。いろんな本や雑誌、
サイトなど見てみて、ふと気がついたのは、パエリャのイメージは昔から何一つ変わっていないということ。
まっ黄色なご飯が鍋に盛られていて、海老だの貝だのがさながら竜宮城のごとく、舞い踊っているという
ものです。このイメージはあまりに鮮やかに出来上がっているので、パエリャとはこういうもの、という
ステレオタイプがみんなの頭に出来上がっているのです。
私どもの店に限って言えばパエリャは海の幸のパエリャのほか、山の幸のパエリャなど常時数種類を用意
しているのですが、売れ行きの9割は海の幸のパエリャ。これは日本人が作り上げたイメージというのでは
なく、アメリカで出版されたスペイン料理の本のカバーはやっぱりシーフードパエリャ。スペインのバルの
ガラス窓にペンキで描かれている絵はやはり竜宮城パエリャ・・・。どうも世界中、パエリャと言えばこの
イメージなのです。
今私の手元にパエリャのレシピだけを集めた本があります。ここには約50種のパエリャが掲載されて
います。実はスペインは米料理の宝庫で、パエリャ鍋を使った「○○のパエリャ」と呼ばれる料理以外に
カスエラ(土鍋)やキャセロールなどを使用した「アロス」と呼ばれる米料理がそれこそ数え切れないほど
あります。(アロスとはスペイン語で米という意味でパエリャ鍋で作る米料理以外は○○のアロス、
という風に呼びます。)
さて、この本の中にはもちろんシーフードのもの、肉類を使ったもの、野菜を使ったものなどほとんど
何でもありかと思わせるほどの種類が載せられています。そしてパエリャにはつきものと思われている
サフランを使わないパエリャだってある。 私どもの店ではよくパエリャが黄色くないといわれます。
これは別にサフランを渋っているのではなく、トマトのソフリートも入れているからです。米の色は
入れる材料に左右されるところがあります。スペインの比較的安価な店では鮮やかな黄色のパエリャが
ありますが、あれは世界一高価なスパイスであるサフランではなくコロランテという色粉を入れて
いるのです。
私どもの店のウサギ肉ときのこのパエリャはわざとサフランを使わずローズマリーで香りをつけるの
ですが、私にとってこれはお勧めのパエリャです。米をパラリとした食感に作るのが標準的なスタイル
ですが、実際スペインではかたく作ったり、柔らかく作ったりと様々です。スペイン人はパエリャ鍋の
底を少し焦がしておこげ(ソカラッツといいますが)を作り、これを大変喜ぶのです。
パエリャは米料理といっても外国料理です。焼き飯でもピラフでもなくスペインの料理です。私たち
日本人は米を主食と呼んでほかの食材と分けていますが、パエリャはそう分けるのなら副食です。
スペイン人の主食はパンです。そこで、パエリャをたべながらパンを食べます。お米といっても
外国料理のパエリャにどうぞみなさん広い視野と自由な精神を持って接していただきたい。その方が
ずっとパエリャそのものを楽しめると思うのです。
最後に「バレンシア州料理長クラブ」という団体が1995年に国際パリャコンクールのために規定した
パエリャ・バレンシアーナ(バレンシア風パエリャ───これが基本のパエリャといわれています)
の定義をお知らせしておきましょう。パエリャ・バレンシアーナとは鶏肉、ウサギ肉、豆類、
およびカタツムリの入ったもの、ということです。