先日テレビで古いマカロニ・ウェスタンをやっておりまして、私はつい懐かしくて40年ぶり
ぐらいに見てしまいました。―――というマクラはスペインと何の関係があるのかと思われる
向きもおありでしょうが、実は大ありなのです。

60年代はスペインで映画製作をするのが流行った時代でして、ハリウッドの超大作はたいてい
スペインで撮られたものです。そして、イタリア製ウェスタンもまたスペインで作られました。

私が見た『続夕陽のガンマン・地獄の決闘』はクリント・イーストウッドの若き日の傑作ですが、
昔、神戸の今はなき太陽劇場でフィルムに雨が降っているような状態のものを見ただけなので、
何よりハイビジョンで見られるのはうれしいものでした。

見始めてすぐに気がついたのはあのマカロニ・ウェスタン独特の不思議なムードはその風景に
多く起因する、ということでした。―――いうまでもなく、と言いますか今の私の眼にはどう
見てもアメリカ西部やメキシコあたりの風景には見えない、スペイン中央部の風景にしか見えない、
ということなのです。画面からにじみ出るスペイン、これがマカロニ・ウェスタンの隠し味なのです。

映画の中で、悪役のリー・ヴァン・クリーフ(味のあるいい役者でした)の食事シーンが2度ばかり
あります。これには改めて度肝を抜かれました。昔見えなかったところが見えてしまったのです。
食卓に並べられているのは、まぎれもなくスペインのカスエラだったのです。おまけにリーがでかい
ボウイーナイフでこそげて食べるパンはどう見てもスペインのパンなのです。これでは「ここは
スペインだぞ!」と叫んでいるみたいなものです。

まあ小道具係が大胆なのか、レオーネ監督に茶目っ気があるのかわかりませんが、少なくとも
スペイン人とスペインを知った人にはすぐにスペイン産映画だとわかったはずです。

さて、このカスエラにつては別のところで一度書きましたが、正しくはカスエラ・デ・バーロ
(Cazuela de barro)―――つまり土鍋という意味ですが、60年代にはごく普通に使われていた
はずです。二〇〇年ほどさかのぼれば、このような土鍋はヨーロッパ中どこでも使われていたようで、
鉄製の鍋の普及によって徐々に姿を消していったもののようです(もちろんスペイン以外は)。

現在では、スペインの一般家庭ではIHレンジが普及しておりあまりカスエラは使われなくなり
ましたが、それでもカスエラを好む人も多く、プロの料理人の中でも愛好者がいます(私もです)。

取り扱いが面倒で重い、壊れやすい、と現代人の嫌がる欠点の多いカスエラですが、その独特な
加熱の在り方は何より捨てがたい。土鍋ですから強い勢いの火にはかけられません。弱火〜中火
くらいでゆっくりと熱していきますと、やがて鍋全体が熱をため込んで強烈な調理力を発揮します。
煮込みだけでなく、ソテーすることもロースト皿に使うこともできます。もちろん鍋としても皿と
しても使えます。

伝統的スペイン料理はこのカスエラの使用を前提として組み立てられていることが多く、この意味で
カスエラなくして多くのスペイン料理がなり立たない、といっても過言ではありません。もちろん、
金属の鍋を現在では使うことが多いのですが、火のあたりが異なるので、使い方はおのずと考えなければ
いけなくなります。

著名なスペインの料理人、ホセ・アンドレスはよく強化ガラスの鍋を煮込み料理に使っていますが、
これはなかなかよい目の付けどころではないかと思います。

さて、映画のリー・ヴァン・クリーフは片手に拳銃を隠し持ち、鋭い目つきでカスエラから木の
スプーンで豆の煮込みのようなものを食べていたのですが、あれははたしてスペイン料理だったので
しょうか?