【料理とオノマトペのただならぬ関係】

タイトルのオノマトペ(onomatopoeia)とは擬声語のことです。これは音を表現する言葉で、犬が「ワンワン」とかニワトリが「コケコッコー」といった言葉です。ここではもっといい加減に定義して、モノの状態やそれに起因する独特の音の表現、としておきましょう。面白いことに、これは言語によって聞こえ方が異なり、たとえば「ワンワン」は英語で「bow-wow」、スペイン語で「guau-guau」となり、「コケコッコー」は英語で「cock-a-doodle-doo」、スペイン語では「quiquiriquf」となります。そしてまた日本語には特にオノマトペが多いといわれます。

料理の世界で基本的にオノマトペを使うことはありません。それは料理用語には厳密な定義があるためで、それを理解しておればオノマトペを使う必要がないからです。もちろん一般向けの料理教室などで「〜このお湯がぐらぐらしてきたら〜」などと表現する場合はあるでしょうが、これは行ってみればそのモノの状態を一瞬で感覚的に理解させるため、とでもいいましょうか。

ですから、正しい料理名にオノマトペが使われることは(少なくとも古典料理の場合)まずないのですが、ここにひとつ例外があります。スペインのバスク地方の古典伝統料理で「塩鱈のピルピル(Bacalao al pil-pil)」という有名な料理があります。この「ピルピル」とは加熱された油が跳ねる音に由来する、と言われていますから、直訳なら「塩鱈の油ぴちぴち」となります。なんのこっちゃと言うわけです。何しろ古典料理ですから誰がいつ名付たかもわかりません。しかしこの料理法を見るとなるほどと、うなずけるのです。

この料理は非常にシンプルでありながら、非常に難しい料理です。簡単に言うと塩抜きした鱈の身をオリーブオイルとともにゆっくり低温で加熱してゆく。すると鱈の身に含まれている水分とゼラチン質が油にとけ出して乳化し、オリーブオイルは乳白色のとろみのあるソースに変化します。これは上品にして絶妙においしいソースなのです。この技法はちょうどマヨネーズを作る時とよく似ており、この乳化(emulsion)というのはスペイン料理では非常に重要な技法のひとつなのです。そしてこの料理はプロでも時に失敗してしまうほどデリケートなテクニックを必要とするのです。

というわけでこのオリーブオイルが乳化する時の音が「ピルピル」なのです。つまりこのオノマトペは料理の技法そのものに深く結び付いているわけで、こんな例はスペイン料理にもほかに例がありませんし、他の国の料理にも私の知る限りありません。日本には「ハリハリ鍋」というのがありますが、これは単に水菜の食感をあらわしただけのものと考えられます。

ところで最近は売るためのネーミングとして(つまりはマーケティング施策として)オノマトペがよくつかわれています。なぜか創作料理店やダイニング系の店で頻出するようです。たまたま手近にある某クーポン情報誌を開いてみれば、いやあ出るわ出るわ。いわく――――「ぷりぷり海老マヨ」「シャキシャキ大根サラダ」「パリパリポテト」「ホクホク大根」「とろとろ豚の角煮」「あつあつグラタン」「カリカリベーコンのサラダ」「とろーりチーズ」・・・・・・・(影の声:これを書いてるきまぐれシェフってすごーくしつっこい人ですね、粘着質!)いやはや書き出したら、止まらないほど出てきます。

面白いことに、これらのオノマトペはその多くが食材の歯ざわり、舌ざわりに関するものだということ、それにオノマトペを取ってしまうと普通の料理名、食材名になってしまうということです。どうやらこの「創作料理」というのはオノマトペを創作しているのですね。ただの感覚刺激かと思って見ていますと実に不思議なものに出くわしました。

            「ふわふわお造り」
            「プリプリせせり揚げ」

いずれも常人の理解と想像力を越えています。―――― でもこれで売れるんだろうか???