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諸井浩三の新しい木構造


 1、ベタ基礎の神話

 最近、既存住宅の家屋調査の仕事が比較的多くなっています。初めて行くお家に
「早速ですが・・・」とか云ってズカズカと調査するのも気が引けますので、
はじめは世間話しからはいります。
阪神が強いとか、今年は雨が多いとか、合いそうな話題で心を通わせながら、
目は壁のヒビや柱の傾きにをじっと見ているのです。
 
 近頃、特に目につくのは、基礎のヒビ割れです。田中角栄氏の日本列島改造論
がもてはやされた時代の家(粗製濫造と云う流行語が出来た時代です)が、
そろそろ耐用年数ぎりぎりのところまで来ています。

 当時の木造家屋の基礎は、布基礎で鉄筋の入っていない基礎が大多数を占めていました。
当時の建売住宅はほぼ100%入っていません。なぜなら住宅金融公庫の仕様にも
無筋コンクリートが堂々とまかり通っていたのです。なぜ布基礎と呼ぶのか詳しくは知りませんが、
基礎の底盤の幅が、着物の布幅しか無かった事に由来するようです。土台の下に
基礎の立ち上がりが、地面から30cm程顔を出しています。地面を15cm程、
掘り下げますと基礎の底盤に当ります。厚みは15〜20cm幅は40〜50cm程です。
 
 住宅の総重量が35〜40t。それに対し基礎の底盤の面積は20〜25m2。条件を悪く
考えても地面には2t/m2程度の荷重しかかかっていないのです。地震とか、局部
的に集中荷重がかかる事を予想しても4〜5t/m2の地耐力があれば立派に基礎の
役割を果たします。 
 
 2t/m2の地耐力しか無い地面ってイメージ出来ますか?ヒトの足の裏の面積は
26cmx12cmとして0.031m2、これに2t/m2を掛けると62.4kg。そのヒトが
70kgだったらめり込むぐらい軟弱な地盤なのです。
布基礎は鉄筋さえ入っていれば結構頑丈なのです。

 床下の湿気対策や束石の不同沈下と云った別な問題点は残されたままですが・・・

 阪神大震災以後、木造住宅の基礎は殆どがベタ基礎になっています。ベタ基礎の
語源も詳しくは知らないのですが、床下全面にベターっとコンクリートを流し込
むからかなと思います。
 一般的に建築面積は50〜60?程ありますから地耐力は1t以下でも理論上は大丈夫と
云う事になります。しかし一枚の紙切れより、その紙を箱型に折った方が丈夫にな
るのと同じ理屈で、ベタ基礎の上に布基礎を同じ様な立ち上がりを設けてやります。
それが梁の役目を担ってくれて頑丈な基礎となるのです。木造住宅でベタ基礎は
過剰設計といっても、おかしくないくらい立派な基礎ですが、最近は理屈を知らな
いで何でもベタ基礎にすれば大丈夫みたいな風潮にある様です。基礎の立ち上りに
は点検の為に人が通れる様に所々切断してあります(人通口と呼びます)。
この切断する位置を間違えるとそこに地震時に応力が集中し基礎が簡単に折れてしまいます。
 底盤面積が広い(応力の負担幅が広い)為、応力の大きさは、布基礎の比ではありません。
周囲があまりにも硬い為、弱い個所に応力が集中してしまうのです。
これも地盤が硬い方が有利で、軟弱地盤だからベタ基礎が良いだろうみたいな考
えはナンセンスです。
地盤の特徴と建物のバランスを考えながら、基礎形状・工法を選択すると云った
柔軟な発想が要求されるのです。



 2、地中梁は必要? 

 鉄骨や鉄筋コンクリートを主に設計されているが、木造の設計すると一概に過剰気味の設計をされます。
木造の架構はそれほどでもないのですが、基礎となると鉄骨造のような設計を平気でされているのを
良く見かけます。
 阪神大震災を経験した人にとってはいくら頑丈に造っても頑丈すぎる事は無い、と云った言い分が
聞こえてきそうです。

 この前拝見した図面はベタ基礎で耐圧盤の厚みが250mmでD13@150タテヨコのW配筋。
外周と中央にに250x450の地中梁を廻していました。
 一昔前なら鉄筋コンクリート造の住宅でも立派に支えられる基礎です。

地盤の状態が全然判らないので完全に否定は出来ませんが、ちょっと凄すぎる気がします。
 木造の住宅は土台を地面から遠ざける為に、基礎に立ち上がりを設けます。
低い場合で300mm一般には400〜450mm程度が普通だと思います。
耐圧盤(ベース)の厚みは150〜200mm程度が一般的です。となると立ち上がりとベースの厚み
を合わせれば550〜650mmの地中梁形状のモノが出来ているのです。

 特別にベースの下に地中梁を設けなくてもこの立ち上りを地中梁として利用
する方がはるかに経済的です。
ただ闇雲に立ち上りを地中梁として利用するには少々問題が残ります。
この基礎の立ち上りには、換気口やメンテナンス用の人通口が設けられていて、
立ち上りが分断されているのです。この開口の位置を揃えてしまうと、地震や
他の災害が起こった際に曲げ応力が集中してしまい、板チョコを割ったような
割れ方で基礎が折れてしまいます。

メンテナンス用に造った人通口ですから、人が通りやすい様に開口位置を揃え
たいところですが、ぐっとこらえてランダムに配置しましょう。
また、耐力壁の乗っている基礎も開口を取らない方が得策です。




3、床下換気口の憂鬱

 住宅の耐震診断に出かけて、基礎の換気口廻りが非常に弱い事は以前にも書きました。
 出来れば換気口は造らないに越したことは無いのですが、内部については先週書きました
 通り、メンテナンス用の開口が必要になります。外周部はこれからは開口を設けずに済む
 基礎パッキン工法が主流になっていくと思われます。

 建築基準法で床下の換気は5m以内に300平方センチメートルの開口が必要になって
 きます。と云う事は60cm2/m、基礎パッキンの厚みが2cm、全長20cmですから50cm
 間隔で配置しても、合法と云う事になります。一般的には半間ピッチ(91cm)で柱の直下
 に敷いて軸力を直接基礎に伝達させる事が多いようです。

 それでも、以前基礎パッキンで土台と基礎を分断することの不安を相談された事が
 あります。土台が基礎にベタッと乗っていないので、土台に掛かる床荷重で土台が影響
 を受けるのでは・・・と云うのが相談内容でした。
 先ほど示した間隔なら全然問題はありません。逆にコンクリートに含まれる湿気や結露
 による水分が土台に悪影響を及ぼす方が問題です。

 コンクリートと木は相性が悪いのです。基礎パッキンの無い時代は土台が基礎に
 接着する部分に防腐剤(クレオソート)を塗ったりしましたが、今から考えると気休め
 程度の対策でしかありません。水を呼ぶコンクリートには木を触れさせないに限る
 のです。

 その他メリットのひとつとして、基礎パッキンは風向を選びません。季節・時間に関わらず
 風がどの方位からも進入し排出します。床下換気口では感と経験で風の向きを予想
 しながら開口位置を決める、みたいな事をしていましたが、基礎パッキンの出現により
 風向きを気にしなくなりました。
 材料は金属製・塩ビ製・硬質ゴム製と色々出ている様ですが、金属製はコンクリート
 と同じく結露の心配があり、硬質ゴムは高価ですので、塩ビ製のものが普及している
 ようです。



5、新しい概念 水平構面

地震が発生しますと、当然ながら地面は揺れます。ある人は下からドーンと突き
上げる様な衝撃が走った後、左右に揺さぶられたとか、又ある人はゴーッと云う
地鳴りが聞こえたかと思うといきなり激しい横揺れに襲われたとか。
どんな表現が適当かはさておき、地面が揺れている事に間違いは無い様です。

しかし、建物の構造を勉強するとき、地面が揺れるとは教わりません。建物の
床面や屋上面に、あたかもブルトーザーで押したかの様な横向きの力が加わり
家が揺れるのだ、と教わるのです。人生経験の浅い学生時代には理屈で聞けて
も実感が沸かず、構造の問題を解くのに随分苦労した記憶があります。
家は動かないものとした固定観念がありますから、地面に立っていても、家の
中にいても、地面が揺れているのは変わらないのだから、なぜそんな回りくどい
教え方をするのだろう、と悩みました。

雑学で相対性理論や幾何学をかじり読みしたおかげで、自分も地震と同じ条件
で一緒に揺れた状態で家を見ると、今度は逆に止まっている筈の家が見えない
手で押されているように見えると判りました。これは学校を卒業してから随分と
時間が経ってからの話しです。

では何故、床面や屋上の面だけに横向きの力が働くと教えるのか?家が等しく
横向きに動いているのですから、床だけでなく壁や窓にも横向きの力が掛かっ
ているはずです。話しを単純化してモデル化しているのなら実際の応力の掛か
り方と違うのではないか?
これも実感として、体が覚えるまで随分と時間が掛かりました。

家を横向きに90°回転させて見ると、地震は上下方向に力が加わる状態に等
しい事がわかります。丁度その時、力を上下に伝達する柱の役目を負うのは
何処の部分でしょう?連続的につながっている、床面や屋上面なのです。
言い換えれば、壁や窓に発生した力は床面や屋上面を通って抵抗してくれる
耐力壁まで流れて行くのです。
ですから、地震力は床面や屋上面に掛かる、と教えるのは正解なのです。

まして普通の柱と違い、床には常に変動している積載荷重が掛かっています。
これを無視しますと、ダルマ落としの様に、二階は原型を留めているが一階
は丸潰れみたいな事になるのです、地震が発生する度にテレビでおなじみの
光景となっています。

現行法の木構造では、私がかつて疑問に感じていたこの問題を、まだうやむ
やにしています。「筋交いさえ適正に入っていれば建物は安全だ。」「筋交い
のバランスさえ崩れなければ建物は丈夫である。」etc・・・
現在の建築基準法も木造二階建ての建物ならば、ここまでの検討しか義務
化していません。

品質確保促進法ができて、初めて今まで以上に床面の剛性の大切さが理解
されてきたのです。床面が充分堅ければ床に掛かる応力を耐力壁に伝える
事ができますが、床が横向きの力に対しに軟らかい構造になっていると、
うまく力を伝えられません。
床まで流れてきた地震力が、耐力壁に届く前に床面が変形してしまい、建物
が損傷してしまうのです。

そこで品質確保促進法の構造検討では、床面を構成する部材や固定方法
によって床面の剛性の倍率を決めてあります。
ちなみに構造用合板を梁に釘で直接緊結する、直張り工法は剛性が高く、
床倍率3.0が確保できます。梁の上に根太を転がしてその上に合板を張る
工法は床倍率がうんと下がって0.7〜1.0程しかありません。
こうした、水平面の剛性を木造住宅でも的確に確保しようとする試みが
水平構面と云う概念です。鉄骨造やRC造では古くから認識されている考え方
ですが、今まで木造の建物には何等考慮がなされていませんでした。

いまでも、品質確保促進法に基づく性能表示制度に興味を示さない人は、
建築の専門家であってもこの概念を軽視又は無視している様です。



6、軸組工法の命 耐力壁線

 前回は水平構面の重要性を書きました。床面が充分堅くないと地震力が
 思う様に耐震壁に伝わらないと云う内容でした。
 今回は水平構面から伝わった地震力が次に伝わる耐震壁について述べます。
 
 建築基準法では、地震に抵抗するのに必要な壁の長さを定めています。
 必要壁量と云う名で呼ばれるこの壁は、床面積や階数・外壁の見付面積と
 いった条件を加味して、地震や台風に抵抗する壁の長さを決めようとする
 ものです。
 耐力壁はその構造の違いにより0.5〜5.0までの倍率が定められております。
 実際の壁の長さにこの倍率を乗じて必要壁量を上回ることにより、安全を
 確認しようとするものです。
 
 耐力壁が一番容易に設置できるのは、四周ある外壁廻りです。
 ドアや窓を除けば全て耐力壁となります。特に間口の狭い奥行き
 のある家は奥行き方向は殆どの壁が耐力壁です。こういった壁の連なり
 を耐力壁線といいます。この耐力壁線間の間隔が2間以上離れますと
 耐力壁に水平構面から伝わるはずの、地震力が伝わり難くなってしまいます。
 正確に伝える為、耐力壁線間で接合する胴差しや梁は金物等で補強する
 事が必要になってきます。建築基準法では、そこまでの細かい規定が無く
 大工さんの良心まかせになってしまいますが、性能表示制度の耐震等級2
 以上の性能を求められる建物には、この検討が必須となります。



7、腕の見せどころ、耐力壁配置

 床面から流れてきた地震力を耐力壁(筋交い等)が必死に抵抗して(横向き
 の力を 立て向きに変えて)基礎に伝え、基礎から地面へと力を逃がして
 行きます。

 そこで問題となるのが耐力壁の配置です。間口の狭い、家を想定してください。
 二間間口の家でしたら、玄関に0.75間から1間取られてしまいます。
 採光の問題でその横には1間ほどの窓がついています。
 となると、地震に有効に抵抗してくれる壁が全く取れない事になります。
 必然的に家の奥の方で耐力壁を多く入れなければならない構造に
 なってしまいます。数字的に数合わせで耐力壁を規定数だけいれても
 これでは、地震に揺さぶられた時後ろ側が一生懸命抵抗しているのに
 玄関側がグラグラで、均等に揺れてくれません。それどころか重力加速度
 が加わり玄関側が地震の揺れ以上に大きな振幅で揺れてしまいます。 
 これでは返って危険ですらあります。
 なんとか、玄関側の剛性を高めようと、色々な金物が開発されています。
 しかし、原則的に全面の壁を半間以上とらないと、安心出来ません。
 窓の上や下にある壁は耐力上有効な壁とはいえません。壁の部分を
 充分に剛性がある様に施工しても、開口部に地震力が集中し崩壊して行きます。
 建物を平面的に見て、前後左右均等に耐力壁が配置出来る様に
 設計しなければ、地震に強い家は出来ません。
 
 在来木造住宅の倒壊例で、建物角の柱が土台から抜け壁が変形し
 倒壊に至った例が数多くありました。
 中心部の柱は四方から建物の重量を支えている為、めったに
 「柱抜け」は発生しませんが、中心部の柱に比べ角の柱は1/4しか
 建物を支持していませんので、建物荷重より地震の引き抜き力が
 上回って抜けてしまうのです。
 従来の家は角に耐力壁を多くもってきました。私も学校では
 「建物の角には筋交いを配置し・・・」と学びました。今でも黙っていれば
 大工さんは何の疑いも無しに角の柱を耐力壁に使っています。
 しかし、ただでさえ抜けやすい角の柱を利用して耐力壁を造る
 メリットが何処にあるのでしょう。倍率の高い(非常に硬い)耐力壁を
 配置しなくても、ホールダウン金物等で柱と基礎をガチガチに固定
 しなければ、柱は簡単に抜けてしまいます。
 意匠上の問題で、角に耐力壁をつけなければならない事がありますが
 なるべくなら角の耐力壁は控えた方が良いのです。
 
 又、一階と二階の耐力壁の位置を合わせると、一見安定した軸組
 に見えるのですが、一階の柱は一階部分と二階部分の合力が
 引抜力となって柱に加わります。立面的にみて一階と二階の
 耐力壁はチドリに配置した方が、地震力が相殺できて有効なのです。



8、多くなった金物類

 やっと、地震力が柱を通って基礎までやって来ました。基礎は木造の場合
 鉄筋さえ、しっかりいれていれば、簡単には壊れません。鉄骨造や鉄筋
 コンクリート造に比べて、木造は重量が軽いのです。都合の良い材料が
 あれば もっと軟らかい材料で基礎を造った方が建物として安定すると
 思います。

 コンクリートの基礎があまりにキッパリと地震力に抵抗してくれる
 ものですから、柱が基礎から浮き上がってしまいます。阪神大震災で木造
 住宅の倒壊につながった原因の中でもっとも多かったのが、柱の引抜き
 でした。基礎の上には土台が敷かれてあります。その土台のにホゾ穴を彫っ
 て柱が乗るのですが、通常逆T字型の金物か、L又はV型の金物で止める
 だけです。これらの金物は全て1ton以下の引抜力ではずれてしまいます。
 耐力壁の剛性によりますが、通常耐力壁を構成する柱には3ton程度の
 引抜力が発生します。計算上ですが稀に5tonを超える引抜力が発生する
 場合もあります。こんな場合は基礎から直接アンカーボルトを出して
 柱に緊結しないと、地震力に抵抗出来ません。その様な個所に用いられる
 のがホールダウン金物です。他所の工事現場を見ていましても、ホールダ
 ウン金物の入れ方が間違っているのを良く見かけます。
 筋交いとぶつかってみたり、基礎部分だけにしか入っていなかったり
 (柱頭・柱脚両方に同じ強度の金物が必要なのです)耐力壁と関係の無い
 通し柱だけにしか入っていなかったり、検査員も入っているかいないか
 だけのチェックしかしない人も多い様です。
 
 最近良く目にする工法でSE工法と云うのがあります。
 構造材にホゾ穴を彫らずに切れ目を入れてスチールの板をはめ込んで
 ドリフトピンと云う、ボルトの様なもので構造材を緊結する工法です。
 在来工法では柱と 土台・柱と梁等は土台や柱にホゾ穴を彫って差し込
 んで金物で止めていました。
 
 当然ながら土台や柱に断面欠損ができます。四方から梁が刺さる通し柱
 なんか殆ど断面が残っていません。計算には現れませんが、実際はどの
 様な力が加わるか、誰も解明した人がいません。木造の倒壊は先ほども
 書きましたが、土台から柱がスポッと抜けることが、最大の原因でした。
 ホールダウン金物でしっかり緊結した建物が、阪神大震災の様な大きな
 地震に遭って倒壊したって云う事態がまだ発生していませんので、通し柱
 の断面欠損は問題になっていないだけの話しです。
 
 今後SE工法の様な構造材をあまり傷めない工法が、安価で合理的に
 出来る時代になって欲しいものです。