時のながれが良材を育む
ベンハーという古いアメリカ映画のシーンにガレイ船(奴隷船)の船底で奴隷たちが足に鉄の重りをつけられながらオールを漕いでいる場面がありますが、この映画を見られた方、覚えてますか?
この時漕いでいるオールは実はハードメイプルで出来ているのです。ご存知でしたか?良質なハードメイプルは強度が強く、海の塩分にも強くなかなか腐らなかったのでしょうね。
この映画はキリスト生前の時代背景ですから良質な材が豊富にあったのでしょう。その後いつ頃からかは明らかではないのですがこれらのハードメイプルはバイオリンのネック・サイド・バックなどに使用されるようになったのです。
ガレイ船やその他の船のオールからバイオリンが作られていたなんて驚きですね。何故でしょうか?長い年月海水に浸かっていたハードメイプルをわざわざ楽器用材にするには何か理由があったのでしょう。
メイプルに限らず木材は水の中に長い間浸けておくと木材の細胞の奥深くまで入り込んでいきます。この木材を水中から出して自然の乾燥(直射日光に当てないほうが良い)に任せてやると
・割れにくく乾燥していく
・木材の奥深い細胞内に含有している木材本来が持っている水分を同時に引っ張り 出しつつ乾燥していく。
という効果があるのです。
つまり水中に浸かっていたときの水が木材自身の水分を引っ張り出しながら同時に乾燥が進んでいくのです。この原理からいくと大型船のオールに使われていたハードメイプルは海水に浸かっているときは水分が木材に染み込み、引き上げてられて使用せずにいた間に徐々に同時乾燥がおこなわれていたということですね。
これが何年も繰り返された結果十二分に乾燥し、くるいにも強い安定した材に変化していったものと思われます。これが自然乾燥材の意味なのです。
これ以降陸揚げされたオール用ハードメイプル材はバイオリン製作家達の庭先や屋根裏の風通しの良い所で数年から数十年間保管され、更なる自然乾燥を施されその他の気候・風土に順応化されていったのです。もちろんオール用材のみでバイオリンを作ったのではなく近くの山から切り出した丸太材から上記の過程を経て作ってもいたのでしょう。
今までハードメイプルについて述べてきましたがスプルースやマホガニー、ローズウッドその他楽器用材は全てこのような流れの中で育てられてきたのです。自然の大地の進行と共に楽器用材が育っていくのです。この長い年月こそが名器と呼ばれる楽器を創造してきたのです。機械で人工的に急速乾燥させれば水分は飛び、油分は飛び組織細胞も破壊されてしまいます。安価に大量生産する目的のみの方法で何が出来るのでしょう?ご存知ですか?自然乾燥材から出てくる音は甘く切なく肌にやさしくささやいてくれるということを。大きな音とは縁がなく高音のキラキラ感とも縁がなく、和音の濁りとも縁がない音、これこそが大自然が私達に与えてくれた宝物だということを。
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